2018年初旬、マイクロソフト社から新しいクラウド型ERPのDynamics 365 Business Centralが発表され、2019年以降はDynamics NAVの新しいバージョンは今後リリースされません。結果として、Dynamics NAVを利用している企業はDynamics NAVからDynamics 365 Business Centralにいつ、どのようにアップグレードするべきかを含めて多くの企業が検討をしています。
あるDynamics NAVユーザーは、「Dynamics NAVはとりあえず動いているから問題ない」と今のところ不便に感じないかもしれませんし、これまで長い間Dynamics NAVを稼働し続けた企業にとって、新しいERPへアップグレードする決断を下すことも簡単なものではありません。しかし、実際はバージョンアップグレードが施行されず古いままの環境を維持している“レガシーERP”としてDynamics NAVを運用することは、システムパフォーマンスの低下・データ保全性・運用負担増加などの弊害になり、また同時に情報漏えい・サイバー攻撃等のさらに大きな問題に発展する可能性があり、多くの企業が早急な対応が求められています。
今回の記事では、Dynamics NAVユーザーがマイクロソフト Dynamics 365 Business Centralへのアップグレードを検討する上で知っておくべき3つのポイントをご紹介します。
その1:アップグレード
Dynamics NAVからDynamics 365 Business Centralへアップグレードする工数は、Dynamics NAVで使用している機能とアドオン機能の有無により大きく異なります。標準機能をメインに使用している場合は、Dynamics 365 Business Centralへのアップグレードは非常にシンプルに行うことが可能です。
マイクロソフトDynamics 365 Business CentralはDynamics NAVと異なりクラウドとオンプレミス両方のオプションを提供しているため、次のような要素を考慮する必要があります。
- 現在のユーザー数、将来のユーザー数、ユーザーの役割(D365 BCはNAVのライセンス形態とは異なるため、必ず確認する必要があります)
- 現在のソリューションのバージョン(NAV RTCバージョン、クラシックバージョンなど)
- 現在使用しているカスタマイズ機能、カスタマイズ機能の移行の必要性、カスタマイズ機能はDynamics 365 Business Central標準機能で既にサポートされているか、業務プロセスは変更されているか
- カスタマイズが多い場合は、移行ではなく新しく導入しなおしを検討するか
- 現在利用しているアドオン機能の必要性や移行の有無
- 今後必要となる追加のサービスまたは他システムとの接続の有無、これには将来カスタマイズが必要かなど
- (主にクラウドで)本番環境およびテスト環境で必要なストレージ量、追加のスペースを購入する必要性付け
- Dynamics 365 Business Centralに移行する際に想定されるコスト、経営や実業務での実用性、開発や移行内容の優先順位
NAV2013以降のユーザー
NAV 2018およびNAV 2013以降のユーザーには、更新時にDynamics 365 Business Centralにアップグレードするオプションがあり、アドオン機能とデータを新しいクラウドベースの環境に簡単に変換できる方法があります。また、新しいDynamics 365ライセンスに移行すると、より多くの機能をそのまま利用できるようになります。
初期のユーザー
NAV 4.0、7.0、2009 Classicなどの古いバージョンを利用している場合は、中には移行が困難な古いデータやアプリケーションが存在するため、Dynamics 365に取り込む前に古いデータを再構築することをお勧めします。
追加説明: Dynamics 365 BCにはALと呼ばれるプログラミング言語が使わています。AL言語を使う大きなメリットは、サードパーティ(アドオンなどを作る外部開発業者)によって追加されたカスタマイズ機能やアドオン機能のコードは、Dynamics 365 BCの基盤となるコードと分離して管理することが可能となりました。その結果、アップグレード時に煩わしいことが多かったカスタマイズ機能やアドオン機能の影響を受けないため、今までより早く、シンプルな工程で現在または将来のDynamics 365 BCのアップグレードができるようになりました。
Dynamics 365 Business Centralへのアップグレードの一般的な流れ
- システム要件分析
- システムソリューションの設計
- 環境設定
- Dynamics 365のセットアップ
- カスタマイズ機能、3rd Partyアドオンのアップグレード
- マスターデータと過去のトランズアクションデータの移行
- システム統合テスト
- ユーザートレーニング
- ユーザー受け入れテスト
- 新システムへのデータ移行
- 本番切り替え作業
- 導入後のサポート
マイクロソフト移行ツール
マイクロソフトでは、新しい環境に合わせて既存のコードをアップグレードために、Dynamicsの最新バージョンへのアップグレード用ツールを無償提供しています。このツールを使用すると、ユーザーはカスタムコードを再構築して、最新のDynamics 365 Business Centralの仕様に合わせることができます。 上記のリンク を参照して、マイクロソフトの移行ツールを利用できるかどうかを確認してください。
その2:費用の比較
中には、現在Dynamics NAVを使用しているが、異なるソリューションを検討している企業もあるでしょう。そこで、Business Centralと競合他社のSAP Business OneとSage Intacctと比較してみましょう。
それぞれに価格の内訳を示しました。
マイクロソフト Dynamics 365 Business Central
Dynamics 365 Business Centralのライセンス費用は次のとおりです。
- Dynamics 365 Business Central – Essentials:ユーザーあたり月額$70
ドル - Dynamics 365 Business Central – Premium:ユーザーあたり月額100ドル
- Dynamics 365 Business Central – Team Member:ユーザーあたり月額8ドル
Business Centralのライセンスは非常にシンプルです。機能毎の料金ではなく、ユーザライセンス料金を支払えば、Essential、Premiumに割り与えられた機能群を利用可能です さらに、各D365 Business Centralサブスクリプションには、外部の会計士用に1人の無料ユーザーとパートナーリセラー用に1人の無料ユーザーが付属しています。
Dynamics 365 Business Centralはクラウドソリューションだけでなく、ビジネスニーズに合わせオンプレミスバージョンを選択することもできます。
マイクロソフト Dynamics 365 Business Central – オンプレミス
Dynamics 365 Business Centralのオンプレミスユーザーの料金*は次のとおりです。
- Dynamics 365 Business Central – オンプレミスPremium:ユーザーあたり2,800ドル
- Dynamics 365 Business Central – オンプレミス Essentials:ユーザーあたり100ドル
- Dynamics 365 Business Central – オンプレミス Team Member:ユーザーあたり 400ドル
*重要:これらのライセンスは1回限りの費用です。Dynamics NAVと同様にマイクロソフト社のメンテナンスサービスであるエンハンスメントプラン契約が必要となり、ライセンスの費用と別に毎年総ライセンスコストの16〜25%の年間支払いがあります。
SAP Business One*
ライセンスの購入方法は2通りあり、それぞれに3つの価格が設定されています。
SAP Business Oneの一括購入
- Professional:3,213ドル
- Limited:1,666ドル
- Starter:1,357ドル(最大5ユーザー)
ユーザーはライセンス(1ユーザー)を所有しますが、バグの修正とパッチリリースおよび年次メンテナンスは定期的に追加料金で請求されます。
SAP Business Oneのサブスクリプション契約
- Professional:ユーザーあたり月132ドル
- Limited:ユーザーあたり月99ドル
- Starter:ユーザーあたり月110ドル(最大5ユーザー)
このプランには、年間保守料金が含まれています。ただし、多くのユーザーはクラウドホスティングを利用するため、年間10,000〜20,000ドルの追加料金が発生します。
Sage Intacct*
Sageは価格を一般公表していないため、ライセンスに関する情報を取得するためにはSageに問い合わせが必要です。受け取ることができる情報はそれぞれのケース毎に異なるため、Sage Intacctの特定の価格と条件を定義することは困難です。以下が私たちが問い合わせた際に得た情報の一例です:
Intacctの基本アプリケーション価格は月額425 ドル、ユーザーライセンスあたり月額210ドルです。
- 契約:1年(毎年更新)
- 総コスト:ユーザーあたり7,620ドル
注:*Dynamics 365以外2社の価格が変更されている場合がありますので、価格はあくまでも目安とお考え下さい。
その3: Dynamics 365 Business Centralへアップグレードするメリット
1. 最新のテクノロジー
最新のERPプラットフォームは、日常業務やプロジェクト管理を合理化し、リアルタイムデータの可視性を付与するだけではなく、先進的なテクノロジー(クラウド型、モバイル機能、機械学習など)を随時利用できるシステムであり、日々進化するビジネスに適応する機能を備えています。
2. 高機能プラットフォーム
Dynamics 365 Business Centralは、Dynamics NAV の主要機能を全て引き継ぎながら、さらに多くの機能が追加された高機能プラットフォームです。リアルタイムデータの可視性、インテリジェントアプリケーションとの統合、カスタマイズ機能、サービス機能など、より多くの機能が含まれます。
Dynamics 365 Business Centralが最新のERPプラットフォームである理由は、クラウドソリューションのBusiness Centralが常に先進技術に適応しやすい構造によって開発されているためです。Business Centralでクラウドに移行すると、常に最新バージョンや機能のBusiness Centralが利用できます。基本的な考えとして、アップデートはシステムのどの部分にも影響を与えず、手動で行う必要もありません。その他にも、Power BI、Power App、Office 365との統合、会計およびサプライチェーン含め多くの最新のツール、連携、機能を備えています。
3. システムの運用・管理業務 の削減
従来のソリューションでは、システム検討や運用段階で、様々な検討事項(コードのアップグレード、ハードウェアの冗長性、データバックアップ、サーバーライセンス、データセンター料金、ITリソースと複雑なデータベースを備えたサーバーのメンテナンスなど)があり、従来のソリューションでは多大な手間がかかる作業でした。クラウド型のDynamics 365 Business Centralにアップグレードすることで、これらの作業を取り除くことができます。これにより、IT部門は他の作業やプロジェクトに時間とリソースを割くことが可能となります。
4. マイクロソフト Azureでのビジネス継続性とSLA
マイクロソフトは99.9%以上の稼働率をサービスレベル契約(SLA)内で保証しています。マイクロソフトは、多数のサポートサービスによって企業がサービスを適切に利用できるよう迅速なトラブルシューティングをサポートします。
最適なソリューションの選択
Dynamics 365 BCはPremiumとEssentialsの二つのバージョンがあり、どちらかを選ぶことになります。
- Business Central(Premium)。Business Centralが提供するすべての機能が含まれます
- Business Central(Essentials)。製造管理とサービス管理を除くすべての機能が含まれます
各バージョンはさまざまなビジネスニーズに対応するよう設計されており、それぞれ1つの本番環境と1つのテスト環境が付属しています。
この記事は2部構成のシリーズの最初の記事です。続きの記事“Dynamics NAVからDynamics 365 Business Centralへアップグレード”も是非お読みください。
カルソフトについて
カルソフトは、90年代からERP・インターフェース開発・ソフトウェア開発など含め1500件のビジネスソフトウェアの導入、アップグレード、開発などをしてきました。産業毎に共通化したニーズを理解しながら、同時に各企業の固有のビジネス要件を踏まえて、お客様に合ったソリューションを選択・提供しています。カルソフトでは近年95%以上の高い顧客維持率を達成しています。
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